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東京地方裁判所 平成5年(ワ)4008号 判決

原告

愛澤清

右訴訟代理人弁護士

田中紘三

被告

株式会社三洋紙工所

右代表者代表取締役

赤松祐司

右訴訟代理人弁護士

青木孝

橋本栄三

鈴木研一

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、二五一万円及びこれに対する平成四年一月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、会社の従業員が給料から天引きの方法により積み立てたとして、会社に対し右積立金の支払を求めた事案である。

一  原告の主張

(請求原因)

1 原告は、被告株式会社の従業員であった(当事者間に争いがない)。

2 原告は、被告に対し、別紙記載のとおり、給料天引きの方法により合計七八一万円を積み立て、返還時期を原告が被告の従業員たる地位を失ったときとし、その間被告が右金員を消費できる旨合意をした。

3 原告は、平成四年一月二〇日、被告を退社した。

4 原告は、被告に対し、右同日、積立金の支払を求め、被告は退職の事実を知った。

5 よって、原告は、被告に対し、消費貸借あるいは消費寄託契約に基づき、七八一万円のうち五三〇万円の弁済を受けているので、残金二五一万円及びこれに対する弁済期の翌日である平成四年一月二一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

6 (消滅時効について)

原告と被告は、原告が被告の従業員である間は原告の自宅の取得資金とするためにのみ積立金の返還を求めることができる旨合意していたから、消滅時効の起算点は平成四年一月二〇日以前に遡らない。

二  被告の主張

1  原告の積立金は昭和四九年六月分までであり、これは原告が管理していた。昭和四九年七月分からは被告が原告から弁済期の定めなく借り入れていたものである。

2  原告主張の消費貸借あるいは消費寄託契約成立の最終日である昭和五四年三月から起算して、五年(商事債権の消滅時効期間)あるいは一〇年が経過した。

被告は、原告に対し、平成七年三月一四日、右の消滅時効を援用する意思表示をした。

三  争点

1  原告主張の積立ての有無

2  消滅時効の成否

第三  争点に対する判断

一  証拠(甲一、二、七、一一、一二の1ないし38、一三、乙二、原告本人、被告代表者)によると、原告は、昭和四二年被告会社に就職したが、当時の被告の代表取締役は、原告の妻の父親赤松政雄であったこと、昭和四五年ころから、原告ら赤松一族の従業員の自宅購入資金にあてる目的で毎月給料の一部を積み立てていたこと、原告の積立金は、別紙のとおりであり、積立金は被告が管理し、被告においてこれを使用することも許容されていたこと、昭和五四年六月に原告が自宅用の建物を購入する際、被告から原告に五三〇万円が返済されたこと、が認められる。

二  しかしながら、前記のように、右の積立ての目的は、原告らの自宅購入のためではあるが、従業員である間は、自宅取得資金とするためにのみ返還を求めることができ、自宅取得資金以外は返還を求めることができない旨の合意の存在を認めるに足りる証拠はない。のみならず、被告は、昭和五四年四月からは、原告の給料から積立てのための天引きをしていないのであるから、その後の居住用不動産の取得計画も事実上頓挫したものということができ、原告はいつでも積立金の返還を求めることができたものというべきである。

三  右の積立ては、被告がその営業のためにした行為とはいえないから、商行為によって生じた債権とはいえない。

被告が、平成七年三月一四日、原告に対し、右消費貸借あるいは消費寄託契約に基づく原告の債権につき一〇年の消滅時効を援用する意思表示をしたことは、当裁判所に顕著であり、原告の債権は、時効により消滅したものというべきである。

四  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤康)

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